今でこそ石の茶碗というと意外に思われるが、悠久の人類の歴史の中でみれば、それはずっと価値のあるものであり続けてきたと言える。石器、石碗の起源は、3万年前の後期旧石器時代まで遡る。それまで、手の平や葉などを器にして飲食をしていた人類にとっての最初の工芸アートである。2500年前、インドのブッダ (釈迦) は、不浄無く、聖なる神霊、吉祥、安心の器として、生涯 飲食には「石碗」をお使いになられた (四天王奉鉢)。
釈迦の教えである仏教が中国に渡り、一衣一碗を財産とした僧と共に石碗も中国に渡った。中国の王達は石器玉碗を使用した。その後、茶禅と共に日本に石碗が伝えられたとされる。
日本最古の物語文学 「竹取物語」 でも、かぐや姫が求める石碗 (石鉢) を石作皇子が作り贈ったという一節が伝えられている。1000年以上も前の文学においてこのように描かれたことからも、石碗がいかに高貴な物として珍重されていたかがうかがえる。
かつて建築石材会社を経営していた私は、今も石に魅せられ加工技術の可能性に挑み続けているのである。
当方の制作する石碗は、表面の仕上法により以下の3種類に大別される。
主に抹茶茶碗を制作しながら、聖杯や湯呑、ぐい呑なども制作している。
・空(割文様)自然石割れ肌仕上
・禅(打文様)ノミ先穴打仕上 (ビシャン加工)
・妙(磨文様)磨き仕上
作品の素材となる原石は、国内の火成岩(安山岩)である富士火山帯箱根山産、白山火山帯奥美濃産、霧島火山帯阿蘇山産を使用。
工法は、一品毎に手割(ダンガロー矢ノミ)、鉄工旋盤(ダイヤモンドバイス)、研磨を施した後、表面仕上を行っている。
そこから高温焼成。焼成も一碗焼。石の種類や作品の状態に応じて1100~1300℃で複数回焼成。
基本的に無釉で、石に含まれる釉成分の窯変による景色を出しているが、粉状にした石の釉成分を溶かして艶のある作品も作っている。
作風は利休好、桃山長次郎風の仕上がり。
※ 富士火山帯箱根山火山岩
17世紀の江戸には、徳川幕府の命により、都市開発のために大量の富士火山帯箱根山の安山岩が運ばれた。諸大名の普請による江戸城(現在の皇居)や河川、運河、堤防、石積、橋等のために使用されたのである。
この石は天然磁鉄鉱を含み、鉄分も多く、多孔質でマイナス磁波作用に反応する。水の浄化作用を補う力を持っており、お堀の水や河川(運河)の水質汚染の抑制に役立っており、今なお美しい東京(江戸)の源になっている。